Hiking column
ハイキングコラム
昇仙峡の長潭橋から羅漢寺山へと至るコースを
低山トラベラーの大内征さんの案内で、登山家の花谷泰広さんとともに歩きました。
花谷泰広さん
登山家。1976年兵庫県生まれ。優秀な登山家に贈られる国際的な賞「ピオレドール賞」受賞。登山の発展や継承につながる幅広い活動に邁進している。「やまなしハイキングコース100選」監修・アドバイザー
大内 征さん
低山トラベラー・山旅文筆家。1972年宮城県生まれ。低山の歴史や物語を辿り知的好奇心をくすぐる山旅を紹介。テレビ・雑誌等で山の魅力を発信。著書に「低山トラベル」など。「やまなしハイキングコース100選」監修・アドバイザー
羅漢寺山を目指して「祈りの道」を歩く
日本遺産・御嶽昇仙峡の渓谷美を見下ろすようにそびえる羅漢寺山※。登山道の一部は、かつて金峰山信仰の修験者たちが歩いた古道「御嶽道」と重なります。金峰山の里宮である金櫻神社にもつながるこの道は、その昔、人々が思いの丈を届けるために歩いた祈りの道でした。低山トラベラー大内征さんの案内で、登山家花谷泰広さんと共に歩く小さな山旅は、長潭橋からスタートして白山、白砂山、パノラマ台のルートをたどり、主峰・弥三郎岳(標高1058.3m)を目指します。
登り始めは長潭橋近くの登山口から静かな樹林帯の中を歩きます。この道を先人たちも歩いたと思うと
気に歴史物語の中に入り込んだような気分に。「御嶽道」の標識がある分岐点をパノラマ台方面に進むと、歌川広重が金櫻神社を参詣した折に描いた奇石が見えてきます。時を超え、広重と同じ場に立っている感動が味わえるのも古道ならでは。樹林帯を100分ほど歩くと、ここからは大パノラマの絶景が待っています。まず最初に現れる「太刀の抜き岩」は、登山道から道標に従って入れば間もなく到着。これまでの緑に囲まれた風景から一変、富士山をのぞむ大展望と天に向かってそそり立つ太刀の抜き岩が織りなす絶景が広がります。
※羅漢寺山は弥三郎岳・展望台・パノラマ台の総称
登山口近くにある長潭橋は昇仙峡の歴史を見守ってきた山梨県最古のコンクリートアーチ道路橋
かつて修験者たちが金峰山に参詣するために使った御嶽道
かつて修験者たちが金峰山に参詣するために使った御嶽道
山野草を愛でながら歩くのもハイキングの醍醐味のひとつ
歌川広重が金櫻神社参詣の折に描いた奇石。広重は他にも奇石や風景を描いている
切り立つ巨岩「太刀の抜き岩」。晴れて雲がなければ、富士山を背景に天を突くように見える
絶景と爽やかな空気に満たされる白山。そこはまるで山頂のビーチ!
太刀の抜き岩から登山道に戻った地点は道迷いしやすいポイントなので注意が必要。現在地を確認してから進みます。白山近くに設置されている地質を解説する案内板を見ながら、大内さんに花崗岩帯の特徴を教えてもらって白山へ。そこで目にした風景は、予想を遥かに超える絶景でした!花崗岩が風化した白い砂に覆われ、まるでビーチのような美しさ。砂で滑りやすい足元に気をつけながら見渡せば、そこには太刀岡山、茅ヶ岳、鳳凰三山、甲斐駒ヶ岳などの素晴らしい景観が広がっています。「羅漢寺山一帯は樹林や岩など山を構成するものが、むき出しになって我々を楽しませてくれている。風化した白砂が見せる情景や、風もいい。そしてこれだけの大展望が楽しめる“低山”も珍しいですよ」と大内さん。
白山からは北に太刀岡山や茅ヶ岳、西に鳳凰三山や甲斐駒ヶ岳などを望むことができる
付近の地質について大内さんからレクチャー
登山道の脇には炭焼き窯の跡が残る
山水画のような幻想的な風景が待つ白砂山へ
白山から白砂山に向かう途中には炭焼き窯の跡が点々と残されています。そう遠くない昔、この山が人々の生活に密接なつながりを持つ場所だったことをうかがわせる風景です。静かな樹林帯の中をしばらく進むと白砂山への分岐に到着。そこから山頂に向い樹林帯を抜けた先にはスケールの大きな白砂の風景が、ふたたび眼前に広がります。砂の斜面に足を取られないように気をつけながら進んでいくと、そこはまるで山水画のような世界。花崗岩の風化による白い砂と、独特な曲線を描く山肌が印象的です。山頂からは甲府盆地も見渡せる大パノラマが広がります。中でも対岸に位置する弥三郎岳の露岩した雄々しい山容の眺めは最高!
砂山から望む甲府盆地の大パノラマ。
奇岩が露出した漢寺山の独特な山容も白砂山から望むことができる
息をのむほどの大展望と、今まで見たこともないような風景に囲まれて食べるお昼ごはん。
コーヒーも淹れてひと休み。なんて贅沢な時間!
360度のパノラマが広がる弥三郎岳
白砂山からは樹林帯の中の道を進み30分ほどでパノラマ台に到着。パノラマ台は昇仙峡ロープウェイで来ることもでき、売店や八雲神社もあるので観光客で賑わっています。ここでひと休みしたら、いよいよ今回のクライマックス、羅漢寺山の主峰・弥三郎岳に向かいます。酒造りの名人・弥三郎の伝説が山の名の由来とされ、山頂直下の巨岩のくぼみには「弥三郎権現」を祀る小さな祠があります。この先の鎖場を慎重に登り切ると、そこはまるで磨かれた石舞台のよう。半球体のような巨岩の上に立つのは少しドキドキしますが、ぐるっと四方を見渡すとその絶景に感動と達成感がこみ上げてきます。目の前には白砂山、そして富士山、金峰山、茅ヶ岳、八ヶ岳、南アルプスなどの素晴らしい展望が広がります。隣に続く2段目の巨岩に上がれば三角点があり、ここが弥三郎岳の山頂です。
白砂山からパノラマ台へと向かう登山道
道すがら歌川広重も描いた奇岩「鞍かけ岩」が見える
パノラマ台駅で一休みしたら弥三郎岳へと向かおう
金櫻神社の末社で現在は縁結びの神様として信仰されている八雲神社
羅漢寺山はパノラマ台・展望台・弥三郎岳を総称した呼び名のため、パノラマ台にも羅漢寺山の標識があります。
山頂直下のくぼみにある弥三郎権現
球形に近い巨岩に登ってく。足元に注意
足がすくみそうになるが360度の絶景が広がる。景色を満喫したら一段上の頂上へ向かおう。
「パノラマ台駅からロープウェイで下り、「仙娥滝」や「覚円峰」など、昇仙峡の名所を散策するのもおすすめです。さっきまであの山の上にいたのだと思いながら渓谷を歩くのは、また違う印象を残してくれると思います。金峰山を御神体とする金櫻神社まで足を伸して歴史を知れば、羅漢寺山や古道への興味をより深めることにもつながるでしょう。羅漢寺山から金櫻神社へ、そして金峰山へと続く修験道の道は今も残っています。昔の人は歩いて山を越えるしかありませんでしたから、特に低山には歴史的ストーリーが残されていることが多いんです。どんな人が何のために歩いたのかを想像しながら点と点をつないでいくような楽しみを知れば、山梨の低山はもっと面白くなりますよ」(大内さん)
落差約30mの神秘的な仙娥滝、僧侶覚円が頂上で修行したことがその名の由来である覚円峰や、数々の奇岩・奇石。金峰山の里宮である金櫻神社など多くの見どころがります。
仙娥滝
天狗岩と覚円峰
金櫻神社
羅漢寺山ハイキングを終えて
「気軽に登れるのに想像以上の成果が待っているのが低山の魅力。人それぞれの楽しみ方の入口がいっぱいありますよ」(花谷さん)
「登山は初めてでしたが、僕は岩場のスリルや展望のスケール感にテンションが上がって登山にハマりました!」(参加者)
「歴史にふれたり、絶景に出会えたり、がんばって歩いたからこそ味わえた感動で、自然に笑顔になれました!」(参加者)
「山梨は魅力的な絶景低山がたくさんあります。これからも山旅を楽しんで自然や歴史文化を身近に感じてくださいね」(大内さん)